解答と解説

                          滋賀医科大学 臨床検査医学講座教授  岡部英俊

 ● 基本的な考え方

 * Bethesda分類でも表層型細胞で、核のゆがみやChromatinの所見でLSIL (CIN I)HSIL (CIN II、CIN III)と確信できるものはそれぞれIIIa、IIIbないしIVとクラス判定する。

 USC-USとClass分類の併記は本邦独自の方式で一定の基準がないが、High risk HPVをできるだけ落とさないことが目的である。個人的見解としては表層型の核異型細胞でLSILの可能性のほうが高いと思うが、有る程度反応異型の可能性が高いと思う場合は USC-USで Class IIIa、表層核異型細胞で反応性異型の可能性が高いがLSILが否定できない場合はUSC-USでClass IIとするのが良いと思われる。 ASC-USとした場合全てHPV検索をする施設では、Class 分類は実質的にはいずれにしても問題がない。

 ただし、HPVの検索をかならずしもしない施設では、感染の可能性が低い場合でも再検を推進する意味で、Class IIIaにするのがよいのかもしれない。BethesdaとClass分類併記に、あたってはHPV検索をどのようにすすめるのかという方針を良く把握してClass分類の扱いを決める必要がある。 

 同様に小型の異型細胞でHSILの可能性が高いと思うが非腫瘍の可能性が残る場合は CIN II相当かCIN III相当かでUSC-HでIIIa,b、 非腫瘍の可能性がある程度高い場合は、USC-HでIII にしても良いと思われる。なお、CIN IIとCIN III相当の病変はBethesdaではHSILとして臨床的扱いが同様と思われる。

 

 

● ベセスダ問題 1〜10

問題1

  やや核の大きい表層型の細胞が出現している。核のサイズは大きいが、背景に見られる組織球様細胞や好中球などと比べ、クロマチン含量がそれ程多いとはいえず、外形も定型的なCIN Iのものでみられるほど表面の凹凸がありません。二核のものもありますが、明瞭にCINといえるほどではないと判断されます。 従って、Followが必要と思われる症例である。日母の分類では IIで、強くてもIIIaまでと考えられる。 ASC-USに区分するのが妥当と思われる。

問題2

  やや変性膨化があり細胞質の色調もその影響が加わっている、幾分核が腫大しているが核外形はそれほどゆがみが無い。しかし3核の細胞もありLSILの可能性がありHPVのチェックをした方が良いと考えられるので、ASC-USとするのがよいが、日母分類はII-IIIaでよいと思われる。 

問題3

  背景に炎症細胞が多く出現している扁平上皮の多くは表層型でほとんど異型が無い。一個傍基底型細胞でN/Cが高いものがある。核Chromatinの分布は必ずしも均等ではなくIIIないし、IIIbにするのが良いと思われるが、核膜の連続性が不明なところがあり、細胞質の染色性もむらがある。従って核Chromatinの分布様式には剥離後の二次的な修飾が幾分加わっている可能性があるので確実に腫瘍があるとは言い切れずHigh risk HPVの検査をして確認をすることが求められる症例である。その意味で、ASC-HにするのがBethesda分類の考えに沿っていると言える。  

問題4

  ややOGに染まる細胞で、ややChromatinの多い核の大きい細胞があり一方は幾分Koilocytoticに見える。二核細胞の二つの核の形態には違いがあり、LSILの可能性があり、HPVの検索が推奨される症例でLSILとしても良いが、ASC-USでもよい。IIIaにしておくのが良いと思われる。

問題5

  小型の核異型細胞があり、一部は強いOG陽性所見があり、また一部はライトグリーン好性である。表層型のもののみならずそれに比べはるかに小さい細胞がやや光輝のあるOG強陽性であることは、この細胞が十分に表層型に成熟する以前に角化傾向があることを示し、核は濃縮傾向があるものの大きく、Dyskeratoticな異型細胞である。ライトグリーン好性細胞のChromatinは極度に粒状性が高いわけではないがN/Cは高い。 従って、この標本からは、成熟障害と、異常角化傾向があることが明瞭で、Tadopole細胞など細胞野形の異常の把握はできませんが、扁平上皮癌と判断されます。 やや小型の細胞主体で、Microinavsiveと答えても間違いとはいえない。癌が明瞭なので、HPV検索での確認の必要がないと思われる。

問題6

  表層型細胞が主体で核周囲の抜けた細胞があり、多核細胞がある。しかし個々の核は余り大きくなくまた多核細胞の核はいずれも類似のサイズで、LSILの定型的な場合に見られるような核の退縮傾向によるゆがみがみられません。 通常LSILの表層でこれほど多核の細胞がある場合には核変性によるゆがみがあることを考慮するとLSILは考えにくいと思われる。 従って、ASCをできるだけ絞り込むというBethesda分類の観点からは、NILM Class IIでよいと思われるが、慎重を期してASC-USにしてもよい。

問題7

  表層型細胞にKoilocytotic changeがあり、核は周囲の表層細胞に比して大きく、極端ではないが核の外形もゆがみが出ており、Chromatinの所見を考慮すると明瞭にLSIL(CIN I)、Class IIIaに区分される。

問題8

  表層細胞で二核かつKoilocytotic Changeのような核周囲の抜けがあるものの、核サイズは揃い周囲の正常表層細胞のものとほぼ同じで、Chromatinの増加も無くNILM (Class II)と判断されます。

問題9

  中から表層型で核の大きい細胞がかなり多くあり、核の退縮性変化によるゆがみありません。核Chromatinの粒状性はそれ程無く一個核Chromatinが崩壊し核膜の連続性を失ったものがありますがそれを除くと変性はありません。2核の細胞もみられ、その2核の細胞の核も大きくある程度Chromatinの増量があります。 正常の細胞でも反応性の増殖を示す際には核酸合成があるため若干休止期の細胞より核Chromatinが増えますが、核分裂後は二倍体になり、通常のChromatin量になります。この細胞は2核細胞もChromatinが多くこの所見は通常のReactive Changeでは出にくい所見で、HSIL Class IIIa (CIN II)と判断できると思いますが、細胞サイズからASC-USでも可と思われる。核所見で、CIN IIと反応との鑑別に苦慮した場合はHPV感染の有無の確認を求める意味でASC-Hにしても可です。

問題10

  細胞のサイズ、N/C比核Chromatinの性状からCIN III, HSILの判断は容易である。 

 

 

 ● 症例問題 11〜20

問題11

  裸核の大型異型細胞型数見られ、Chromatinは粗大顆粒状といえるほどのものは多く無いが核小体の明瞭なものはない。 しかしながら細胞質を有するものがあり、それらは中心核である。細胞質のしっかりした、N/Cの高いParabasal typeの細胞も見られます。 背景はあまりDirtyでなく、破壊性の変化を示唆する所見無く、CISと判断されます。腺系への分化を示唆する所見はありません。

問題12

  裸核状のHyperchromaticな細胞がかなり見られますが、核小体が明瞭で大きいものが目立ち、Cuboidalな細胞質を持ち索状の配列を取るところがあり核の大小不同や配列の乱れも顕著で腺癌と判断されます。 粘液が見られるところがあり、Endocervical adenocarcinomaと判断できます。 背景はそれほどDirtyではないが、内頚部型の腺癌の診断でよいと思われる。

問題13

 好中球を含むかなり強い炎症があり、若干腫大した萎縮上皮があり核の膨化があるがサイズ揃い腫瘍性の所見はありません。老人性膣炎の所見でNILM、Class IIと判断されます。

問題14 

  頚部の材料であるが、核の大きい異型細胞集塊があり不規則重積があり核Chromatinは比較的繊細で核小体が多発するものもあり、核間距離も不同で、ある程度の分化傾向がある腺癌細胞集塊と推定される。細胞質にはvacuoleがあるものがみられるので、これを粘液と考え転移性腺癌を推定した施設もあったが、明瞭な粘液は無く Endometrioid Adenocarcinomaと考えられる。 しかし、このタイプも子宮頚部に出現しうるため必ずしも体部原発とはかぎらない。

問題15 

  好中球が多いSmearで多数のTrichomonasが見られる。核の腫大した細胞が集塊を作っている。個々の細胞の核サイズは揃い細胞質も大きく、変性 空胞もありTrichomonasの際のRepair CellとVacuolationの所見で教科書的な所見である。 扁平上皮腫瘍はこのような形態で出現することなく非腫瘍性の明らかな病変である。

問題16

 比較的多数の細胞質の淡いN/C高い小型の細胞が多数出現している。ある程度集団を作っている。細胞質は淡く細胞相互の接着は腺癌で見られるほどTightではなく、細胞の重なりはあるもののいわゆる不規則重積集塊の所見ではない。また、核クロマチンの粒状性はそれほど強くないが、定型的な腺癌ほど核小体の明瞭な細胞は無く粘液は無い。 これらの細胞の核の色調は、近傍に見られるライトグリーン好性の中層細胞の核とほぼ同程度であるが、サイズが同等の染まりを示す中層細胞よりかなり大きい。したがって、これらの細胞は全て、正常細胞に比して相当程度の明瞭にChromatinの増量があると判断できる。これらの所見を総合すると腺癌は否定され、扁平上皮癌と判断される。壊死も無く背景はきれいで、CIN IIIと判断される。

問題17

 核は大きく細胞質の繊細な異型細胞がある。核小体は明瞭なものが少数あり、核偏在するものもある。 細胞の結合性は高くないが核が圧排され細胞質に粘液の豊富なものが見られる。 従って腺癌で分化の低いものが推定される。

 内頚部腺癌としては必ずしも定型的ではなく、上部消化管などからの転移を考慮する必要がある腺癌である。また標本を見ると裸核でやや長いものがありますが、核線もかなり見られ、裸核細胞が機械的な影響で生じている可能性が考慮できたことが伺えた。腺癌細胞粘液を含み印環細胞型のものがあるので、転移を念頭においておれば腺癌と判断できるものと思われるが、ややひきのばされた裸核細胞を肉腫成分と考え癌肉腫という回答をされた施設が多く正解は3施設にとどまった。

問題18

 Hobnail Patternが明瞭です。Eosinophilic metaplasiaでHobnailパターンを取るものとの鑑別が必要ですが、かなり核小体大きく核大きく核形の不整が目立ち核小体顕著で鑑別は可能と思われる。従ってClear cell caと判断される。

問題19

 異型の無い扁平上皮とMacrophageが見られる。従って良性の奇形腫ないしDermoid cystを推定することができる。回答選択肢の中では良性奇形腫が選ばれるべきである。

問題20

 核異型強く多核の細胞もみられます。細胞質は淡くライトグリーンに染まり、シート状の集塊が見られ上皮系腫瘍が考えられる。核所見から悪性は明瞭で、分類が問題となる。腫瘍細胞には粘液が見られない。腺癌で見られるような不規則集塊は認めず、FlatなSheet状で腫瘍細胞核は必ずしも偏在傾向は無い。核小体もそれ程顕著に多きものは無い。従って、一般的な腺癌といえる所見は無い。Germinomaのときに見られるほど核小体が目立たず、また多核細胞がある点もGerminomaでは一般的ではない。多核の cellがあるものの一赤血球より大きい好酸性の細胞質内のInclusionが見られるものがあり、ChroiocarcinomaのSyncytial cellは除外でき、Yolk sac tumorが推定できる。