平成20年度解答と解説

〔解説;滋賀医科大学検査医学講座教授 岡部英俊先生〕

 問題−1   材料:子宮頸部擦過   年齢:48歳  臨床所見:定期健診

Koilocytosis

( 1炎症性変化、2高度異形成、3微小浸潤癌、4Koilocyte. 5上皮内癌、6わからない

 Koilocytosis.については定型的な問題であり、問題なく正解に到達できる必要がある。

 問題−2   材料:子宮頸部擦過   年齢:46歳  臨床所見:不正出血

上皮内腺癌

1内頸部ポリープ、2体内膜腺癌、3反応性変化、4転移性大腸癌、5上皮内腺癌、6わからない)

腫瘍細胞の細胞質が淡明で粘液を持つ背の高い腺細胞の集塊が容易かつ明瞭に認めうる。体部腺癌

は細胞質には粘液を持たないと言う細胞形態の特徴を知っておれば、体部腺癌は除外できる。また

背景には出血があり炎症細胞は多量に見るものの、壊死は殆ど認められません。大腸癌は分化の良

い腺癌が多く、浸潤する際には周囲組織を改変しMassを作って増殖する傾向が強く、浸潤部では

壊死を多量に伴う事が一般的で、壊死性変化に乏しく大腸癌浸潤は考えにくいといえます。上段右

写真では背が高く核小体が目立ち形態学的にも異型が強く、また上段左の低倍率写真では大腸癌の

一般的なものに比して、核の小さいNestが見られ、粘液の存在と併せて内頸部腺癌と推定できま

す。上皮内腺癌の症例ですが頸部腺癌まで診断できれば良いと思われる所見です。

 問題−3  材料:子宮頸部擦過   年齢:38歳  臨床所見:定期健診

高度異形成

1:軽度異型性、2中等度異型性、3高度異形性、4微小浸潤癌、5濾胞性頸官炎、6わからない) 

背景には壊死など無く、傍基底型の核異型細胞があり、核の緊満感を欠き、N/C比も極端に高く

ありません。若干OGに淡く陽性の細胞がありますが、周辺の細胞との対比をすれば、表層での変

性に伴う変化で了解できる範囲で、微小浸潤癌でみられる小型角化細胞といえるものはありませ

ん。この点を正確に判断できれば微小浸潤癌とはせず、高度異形成(CIN-V)と判断できると思わ

れます。

 問題−4   材料:子宮頸部擦過    年齢:45歳  臨床所見:不正出血、3年前胃癌の既往歴あり

転移性癌

1頸部腺癌、2転移性癌、3上皮内癌、4体内膜腺癌、5組織球、6わからない)

周囲に見られる表層型扁平上皮の核や好中球に比べると核が大きく、chromatinの増加は明瞭で核

小体も大きい。細胞質に複数の空胞状構造が見えるものがありますが、Macrophageの細胞質の空

胞はPhagocytosisに伴うもので、薄い膜に囲まれています。写真では内部の粘液が必ずしも把握し

やすいとは言えませんが、本例では一部の空胞状構造を取り囲む膜が厚くなっているのが同定でき

ます。このような構造は電子顕微鏡的には細胞質内に多数の微絨毛を伴う管腔で、微絨毛のある領

域が光学顕微鏡的には厚い膜として見えているもので、胃癌の転移が推定できると思われます。ま

た低分化胃癌細胞は浸潤に際して組織間隙をばらばらに広がり、線維化を伴うことが多いので壊死

を伴わないことがあり組織球と見誤ってはならない。

 問題−5   材料:子宮腔内エンドサイト年齢:57歳  臨床所見:乳癌のホルモン治療中

反応性変化

(正常内膜細胞、2体内膜腺癌、3流産、4内膜増殖症、5反応性変化、6わからない)

背景はきれいで、折れ曲がりはあるものの単層の腺上皮がシート状に剥がれたもので、細胞が不規

則に重なり合うところはなく、間質成分は含まず、組織構築的に異常な重積をしている腺の存在を

示唆する所見はありません。この剥離様式からは単層の子宮内腔表層上皮が剥離したものと判断さ

れ、上皮のサイズにVariationがあるものの、粘膜表層での反応性のものと推定されます。上皮の

核は大きくサイズは不揃いで、核小体は腺癌に比べくっきり丸いものは少ないです。濃染し核内構

造が把握できない細胞が重なるところがありますが、挫滅し核線を形成するものとの連続性がみら

れ、この部にも間質は付着しておらず採取時の機械的挫滅やよじれによる変化と推定できます。構

築が細胞像からイメージできれば、診断はさほど困難ではありません。

 問題−6  材料:子宮腔内エンドサイト  年齢:67歳   臨床所見:不正出血

高分化型内膜腺癌

1正常内膜、2内膜増殖症、3反応性変化、4高分化型内膜腺癌、5癌肉腫、6わからない)

本例は年齢67歳なので、通常の場合、内膜はあまり採取できない。本例では、上段の二枚と下段左の写真で見られるように多量の内膜組織が採取され、かなり複雑な腺構造が密に見られる点から、増殖性の病変であることは容易に判断できる。下段左の写真では、複雑な枝分かれを伴う腺構造がみられ、下段右に見られる集塊では、細胞の不規則重積があり、核は大きくサイズも不揃いで、核形も不正で核小体も目立ち、核のサイズは周囲に見られる白血球に比べて大きくChromatinの増加も明瞭で、かつ核間距離も不同で、核のみならず、細胞のサイズも不揃いで配列の乱れの強い病変であり、辺縁のほつれも明瞭に把握でき、低倍率でみられる腺の全体的な構築を併せて考えうると問題なく類内膜腺癌と判断出来るものと思われる。

 問題−7  材料:子宮腔内エンドサイト  年齢:50歳   臨床所見:不正出血

正常内膜細胞

1正常内膜細胞、2内膜増殖症、3反応性変化、4高分化型内膜腺癌、5低分化型内膜腺癌、

 6わからない)

 

左上の弱拡大の写真では大きなSheet状の上皮細胞集塊があり、細胞の結合性の低下はあまりない。右上に土管状の腺の断片がある。中央の大きいSheet状の細胞集塊はその出現様式から、内膜表層の上皮が一塊として剥離したものと推定されるが、この表層上皮と連続した腺は殆どありません。拡大された腺の上皮は異型乏しく周囲のリンパ球や間質の細胞と比べても核のサイズに異常なく、またSheet状の集塊の拡大像では、核間距離も揃い細胞はサイズ核とも一定と判断されます。腺の枝分かれもなく、過形成や癌を疑わせる所見がないことは十分に把握できます。
 問題−8  材料:子宮腔内エンドサイト  年齢:54歳   臨床所見:不正出血

内膜増殖症

1正常内膜細胞、2内膜増殖症、3高分化型内膜腺癌、4低分化型内膜腺癌、5 Arias-stella反応、

  6わからない)

 

症例は54歳であり、閉経後ないし更年期であると考えられる。左上、低倍率の写真では、腺上皮が腺管構造を保って採取されているのがみられ、腺の外形はかならずしもまっすぐな土管状ではない。拡大した写真で容易に把握できる如く丸く拡張した腺がみられる。若干の間質細胞が付着しているものの腺の外形はSmoothで腔面が透見できる腺では内腔がのう胞状に拡張し腔面がSmoothであることが容易に判断できる。正常の内膜腺は分岐することはありません。このような分岐とのう胞状拡張から、過形成病変と推定できる。これらの集塊の細胞のサイズは揃い核も間質のものとさほど変わらず、異型の乏しい過形成で構造的にもSimpleなタイプと推定でき、癌は容易に除外でき、正常の内膜とも区別が付けられる。
 問題−9  材料:子宮腔内エンドサイト  年齢:34歳   臨床所見:不正出血

Arias-stella反応

(回答;1正常内膜細胞、2内膜増殖症、3 Arias-stella反応、4内膜腺癌、5 転移性癌、6わからない) 

34歳と若い症例で背景に出血が目立ちますが、その中に比較的平坦な細胞集塊がみられます。大きい細胞で核サイズの大きいものがみられます。これらの細胞にも、悪性腫瘍でしばしば見るような不規則な重積なく周囲には正常のサイズの内膜細胞がかなり混在しています。細胞質も大きく染色性淡く、Chromatinの分布に不規則なところなく、周囲の情況や年齢を加味するとArias Stellaと推定できる。
 問題−10  材料:子宮腔内エンドサイト  年齢:56歳   臨床所見:不正出血 

平滑筋肉腫

1内膜腺癌、2平滑筋肉腫、3平滑筋腫、4転移性大腸癌、5非角化型扁平上皮癌、6わからない)

低倍率である程度の細胞が採取されていますが、比較的細胞が多く集まっている領域でも、上皮性の接着の明瞭なものは把握できません。拡大を上げると類円形から長い異型核細胞があり、核のサイズにばらつきが目立ち細胞質の形も不揃いな淡いライトグリーン好性細胞がみられ、細胞境界は必ずしもはっきりしません。紡錘形の異型細胞も多く、細長い核を持っていますが、核の先端部には丸みがあります。クロマチンの分布はかなりVariationがあり、悪性は明瞭です。上皮分化を示唆する所見なく、細胞形態から肉腫と推定できます。軟骨、骨、横紋筋などへテロローガスな成分への分化を示唆する所見はありません。腫瘍細胞の束状配列は同定できず、細胞質内のFibrillarな構造は把握しづらいですが、腫瘍細胞はかなり大きく、細長く核先端に丸みがあるものを有する点から、子宮内膜間質細胞由来より平滑筋由来が考えられます。