H18年度解答と解説

〔解説;滋賀医科大学検査医学講座教授 岡部英俊先生〕

症例

 

悪性リンパ腫   

  (低拡大)細胞数が多く全体に結合性が乏しい、紡錘形細胞は乏しく相互接着なく出現して

いるものが多い。このパターンは一般的な良性腫瘍のパターンではない。乳がんの場合、

細胞数が多く取れるものは、乳頭管状腺癌か、充実管状腺癌であるが、これらのものは細

胞の相互接着が比較的良好で、多くの腫瘍細胞は集団で出ることを念頭に置くと、癌でな

い可能性が考えられる。分化の低いものでは、接着性が乏しくなるが、その場合は本例の

ように多数の細胞が採取される可能性は乏しい。したがって、低拡大の所見から、癌でな

い可能性を考慮にいれて細胞所見を見る心積もりをする必要がある。

 (強拡大)裸核状の細胞が多い。集塊になっているところでも癌でみられるような核の

Moldingはない。核の所見は通常の腺癌とは異なり、クロマチンの核内分布も腺型のもの

とは異なり、リンパ系のものと判断できる。リンパ系で、サイズは標本内の赤血球より大

きく、細胞質が消失しているものが多いが核の所見からLarge cell typeと推定できる。核

の形態にはさほどConvolutionはなく、一般的な頻度からして、B細胞由来のLarge cell

typeが考えやすいが、TおよびB細胞性の最終鑑別は免疫組織化学的な検索が必要である。

 

症例 2  乳頭腺管癌   

(低拡大)-小型の充性Nestと周囲に散在性に細胞が認められる。辺縁のほつれはないとこ

ろが多いが、ある程度大きい集塊には多くの分岐を示すものがあり、男性の乳房としては

かなり異常な分岐で多量の細胞がとれている。辺縁のほつれはさほど顕著ではないが、核

Hyperchromaticで大きくN/Cが高い。Gynecomastiaでは間質もMyxoidになることが多いが

それに由来すると思われるSpindle細胞はほとんど無い。(強拡大)強拡大で大きな集塊から分

岐する構造を観察すると、細胞の多形性はさほど顕著でないが内部にN/Cが高く、

Hyperchromaticな異型細胞の充実性に細胞増殖がみられ、核の形態も不正なものがある。こ

の周囲にはRandomに裸核に近い細胞がみられ、ところにより筋上皮を欠く数個の小さい異

型細胞のStrandや塊がみられる。男性であるが、細胞所見、ことに核所見に注意をはらえ

ば、女性化乳房との区別は出来、細胞量と集塊から癌でPapillo-tubular Typeが考えやすい

ことが診断しうると思われる。この症例は、男性なので、癌の頻度は低く筋上皮の有る集

塊もあるため癌が少ないと言う先入観念にとらわれないことが大切と思われる。 

 

症例 3

 髄様癌 

(低拡大) 大型の異型の強い細胞と小型のリンパ球が豊富に見られる材料である。大型の

異型細胞は上皮性の結合があきらかであるが、あまり顕著な不規則重積はなく、また管構

造はない。 低倍率でも髄様癌が推定できる。

(強拡大) 上記の所見が確認でき、診断は比較的容易に出来ると思われる。

 

症例 4

 乳腺症(アポクリン化生)  

 (低拡大) かなり厚みのある大きい集塊の他は比較的サイズの大きい好酸性あるいはライトグリ

      ーン好性のApocrine 化生細胞がみられる他、上皮、筋上皮を伴う小集塊がある。

            背景はClearである。

 (強拡大) 通例にもれずApocrine細胞は幾分核のサイズの大きめでやや 核小体も大きが、

       Chromatinはさほど多くなく、分裂もなく、悪性を疑わせる所見のないことが確認でき

               る。大きい集塊は焦点をずらせて観察すると間質の細胞とTerminal ductと考えられ

               るDuctが含まれるが、悪性を示唆する成分は認めない。

      Apocrine化生の細胞の所見を念頭において、所見を総合すると乳腺症の診断はできる

        ものと思われる。

 

症例 5

 

 乳管内乳頭腫  

(低拡大) 出血性の所見がありFoamy Macrophageが見られるが、余り壊死物質は認めない。

その中に極めて結合性のよい辺縁のほつれのない大きい集塊がみられる。そのほか、剥離細胞も散見される。Macrophageがあるていどみられるので Intracysticな病変を考慮する必要がある。

 

(強拡大) 大きな集塊では上皮と筋上皮の二種類が明瞭にみられ、個々の成分には多形な要素

なく、Papillomaと推定できる。個別に剥離変性した細胞があるものの、積極的に悪性を疑わ

せる所見はない。

 

症例 6

 

 乳頭腺管癌

(低拡大) 細胞数が多く、集塊として出現する傾向が目立つが、辺縁はほつれているものが

 多く、出現細胞数と乳頭状断片の存在から は乳頭状構造を伴う腫瘍が考えられれ、癌を考

 慮すべき所見と思われる。Intraductal PapillomaのときにみるようなMacrophageはほとんどなく、

 Clusterには繊維性の間質はほとんど含まない。

 

(強拡大) 筋上皮は認めないNestが多く、分裂もあり、核の大小不同は極端ではないものの、

 仔細にみると核小体の多発するものがあり、Chromatinの分布も不規則で、癌と推定できる。

 配列と出現細胞数を加味してPapillo-tubular Typeが疑われる。比較的小さいClusterが多くみ

 られたのが管状癌という回答が数施設から出された原因かもしれない。

 

症例 7

 

 線維腺腫 

(低拡大)  上皮性結合を示す、不規則重積性の無い集塊のあいだに裸核双極細胞がみられ、壊

死性背景はありません。

(強拡大)  上皮集塊には筋上皮が介在し、細胞異型乏しく、周囲の裸核細胞にも異型なく、

Fibroadenomaと考えられる。

 

症例 8

 

 アポクリン癌 

(低拡大) 大量の赤血球がみられ、その中にかなり大型の核異型のつよい腫瘍細胞の不規則な

  集塊がみられる。細胞のサイズは一般的な乳がんに比べてかなり大きい。壊死は余り認めず、

  好酸性顆粒状の細胞質を有する細胞がかなり多く Apocrine分化を考える必要がある。 

(強拡大) 腫瘍細胞はライトグリーン好性のものも、顆粒状で、核も極めて大きく、顕著な核小体の

  あるものがみられ、Apocrine由来の癌と判断できる。

  細胞質の所見に注目して顆粒状で好酸性のものがある点とサイズが大きく核小体の目立つ点

  を把握すれば、亜型分類は可能と思われる。細胞質を十分にみることが診断できるかどうかの

  分かれ目である。  

 

症例 9

 

 粘液癌   

(低拡大) ライトグリーンでPaleに染まる粘液が散見され、比較的均一なサイズの細胞

 からなる集塊が見られます。多くの領域では粘液と上皮細胞集団が分離していますが

 一部では粘液に浮かぶ形で、マリ藻状の細胞集団があり、粘液癌を疑わせる所見です。

(強拡大) 粘液と離れた位置にあるものを含め、上皮集塊は単調な細胞からなり、筋上

  皮がみられず、粘液の存在をあわせ、Mucinous carcinomaと容易に診断できる。

 

症例 10

 

 悪性葉状腫瘍

(低拡大) 異型の乏しい上皮の集塊と裸核双極細胞がみられるほか、やや粘液成分の豊富

  なMatrixのなかに紡錘形細胞を含む大きい間質細胞の集団が見られ、導管と間質の

  両方の増殖の有る病変と判断されるが、MyxoidMatrixのなかの細胞の密度が高め

  であり、上皮成分と接していたと思われるSmoothLineを描くところでは細胞密度

  が高い点はPhylodes Tumorを示唆する。

(強拡大) 上皮細胞集塊には筋上皮があり、異型も乏しく、悪性所見は無い。しかし、

   間質細胞の核密度が高く、サイズのVariationがやや目立つことは悪性の可能性を

   臨床家に想起させるために指摘しておいたほうが良い。

 細胞診上は葉状腫瘍と判断する必要がある。悪性例で、異型の比較的軽い場合細胞診

 で良性悪性の区別は困難であるが、本例では、Cellularityが若干高く、幾分細胞異型

 のあることは指摘すべき事項で、さらに脂肪細胞が紡錘形細胞の間にTrapされている

 ことから浸潤性を指摘出来ればなお良いと思われる。